【書評・紹介】『究極のクロマグロ完全養殖物語』 熊井英水

2022年8月19日自伝,SDGs・持続可能な社会を考える上で読んでおきたい本,エッセー・随筆,教養書,水産学,生物学,伝記,ビジネス書,ドキュメンタリー熊井英水

数多の苦難、困難にぶつかりながらも32年をかけて実現したクロマグロの完全養殖。
その過程では一体どのようなことが行われていたのか。
「近大マグロ」の誕生秘話に迫る一冊。

著者:熊井英水

読みやすさ
わかりやすさ
考えさせられる度
専門性
電子書籍 無し
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あらすじ

マグロの王様クロマグロに卵を産ませ、大きく育てて出荷する――誰もが夢見た「完全養殖」を世界で初めて成功させた男がいる。熊井教授と近畿大学水産研究所が幾多の試練を乗り越えて成功するまでの挑戦と苦悩を描く。

究極のクロマグロ完全養殖物語 | 日経の本 日本経済新聞出版 (nikkeibp.co.jp)

書評

「マグロ」、と言ったらやっぱりお寿司でしょうか。
好きな方が多いと思います。
一方でその美味しさが世界に知られ、漁獲が進み、2014年には太平洋クロマグロが絶滅危惧種に指定されたりもしました(2021年現在準絶滅危惧種)。
そしてマグロ資源を守るため、国際会議で漁獲枠が定められたりもしています。

本書はそんなクロマグロの完全養殖を実現するまでの道のりを描いた本です。

完全養殖とは、人工孵化した仔魚を親魚まで育て、その親魚から採卵し再び人工孵化させ成魚に育てるということを指します。
つまり、マグロの完全養殖とは天然のマグロに一切手をつけることなく、繰り返しマグロを生産できる技術です。

舞台は近畿大学。私立大学にしてヒラメ、マダイ、ブリ、カンパチなどの人工孵化・飼育に成功している日本屈指の水産学部をもつ大学です。
筆者はこの近畿大学の水産研究所に勤めています。

確かな生態さえまだ分かっていないクロマグロ。その養殖をやろうというのですから、多くの課題に突き当たります。

人の手で触るとすぐに死んでしまう天然クロマグロの稚魚(ヨコワ)の入手、飼育から研究費の入手、孵化した仔魚の飼育。
そして訪れる恩師の死。
それでも研究は続きます、続けられます。

魚は死をもって抗議する。魚の声を聞け

究極のクロマグロ完全養殖物語 71ページより

前半はそうしたクロマグロ完全養殖に至るまでの道のりが詳細に当事者目線で語られます。

しかし、話は養殖だけでは終わりません。
養殖したマグロを売って消費者に届けるまでが水産業です。
本書では近畿大学の養殖魚の販売を通じて、近頃様々な大学が力を入れ始めた大学発ベンチャーについても触れられています。

そして後半は、筆者のこれまでの人生。何故養殖に関わり、最終的にクロマグロの完全養殖に挑戦することになったのか。
また、マグロを取り巻く現代の事情が筆者の言葉で語られています。

この本の一番の魅力は、まず題名に「完全養殖物語」とあるように、クロマグロの完全養殖に至るまでの過程が物語のように時系列で語られているところです。数々の苦難、困難にぶつかりながら一進一退を続けながらも研究を進めていく。もうこれだけで面白いです。

そして、言葉だけは知っているけれど具体的にどんなことをやっているのかはあまり知られていない「養殖」の入門書としての良さ。
クロマグロを題材に養殖とはどういったものなのかが何も知らない人にもわかりやすく語られています。

そして最後に「マグロ」を知るためのツールとしての良さ。
「マグロ」と聞くとみなさんは何を思い浮かべますか?
赤み、中トロ、大トロ、中落ち、美味しい、寿司、大間、ビンチョウ、クロマグロ、カジキマグロ(細かく言うとマグロじゃないですが)、キハダマグロ、メバチマグロ、ずっと泳いでいないと死ぬ、絶滅危惧種。
とりあえず本書を読む前の私のイメージを書き出してみましたが、こんなところでしょうか。
しかしこれではマグロことを半分も理解していません。
マグロとは一体どういう生物なのか。あるいはいつから食べられているのかや何故減ってしまったのかなど、本書ではわかりやすく紹介されています。
身近な食材であるマグロのことを知るという意味でも良書です。

数多の苦難、困難にぶつかりながらも32年をかけて実現したクロマグロの完全養殖。
その過程では一体どのようなことが行われていたのか。
「近大マグロ」の誕生秘話に迫る一冊。
是非お読みください!

単行本

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。