【書評・紹介】『「国連」という錯覚 日本人の知らない国際力学』 内海善雄

2022年8月19日国際政治学,ICT(情報通信技術),教養書,政治学,ドキュメンタリー

ITUの元トップが明かした国際社会の実態。
国連機関の選挙の内情からインターネットのガバナンスを巡る対立まで。
国際政治の実情がよくわかる一冊。

著者:内海善雄

読みやすさ
わかりやすさ
専門性 やや低い
電子書籍 無し
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あらすじ

自国の利害のためなら平気でウソをつく先進国。正義にこだわる日本の裏でしたたかに台頭する中国。個人の利益最優先の実務官僚――インターネット覇権を巡る9年間の闘いを通じ、国連専門機関の裏側を赤裸々に描く。
先進国、途上国それぞれが繰り広げる、時には恫喝をも含む政治的駆け引きや、個人の利益優先で仕事をしがちな職員の実態を明らかにする。

「国連」という錯覚 | 日経の本 日本経済新聞出版 (nikkeibp.co.jp)

書評

内海善雄・元国際電気通信連合事務総局長が自身の事務総局長としての8年間を振り返ったドキュメンタリーです。

国際電気通信連合。略称ITU。
みなさんはご存知でしょうか?
一応中学、高校の社会系科目で名前だけやったような記憶が私は薄っすらとあるのですが、恐らく多くの方はご存知ないと思います。

ITUは無線通信、電気通信の標準化と規制の確立を図る国際連合の専門機関です。
一つずつ説明していきます。

まず、無線通信と電気通信。
電気通信は電気を利用した通信のことで、無線通信はそのうち電波を利用した通信のことです。
簡単に言えば、電話やラジオなどのことです。

次に標準化と規制の確立。
規制はわかると思いますが、標準化とは何か。
これは規格の標準化を指します。
具体的に言えば電話機や交換機などの規格を標準化することで、国が違っても相互に接続できるようにしようということです。

最後に国際連合の専門機関。
これはUNESCOユネスコやWHOと言えばおわかり頂けると思います(ちなみに「難民高等弁務官事務所」UNHCRや「国連児童基金」UNICEFは総会の補助機関で微妙に違うのですが、大体同じ認識で大丈夫です)。

つまりITUは電話やラジオの規格などを司る国際的な機関というわけです。
そして著者の内海氏はこのITUのトップ・事務総局長を務められた方。
この本は、著者がITUのトップとして見てきた国際社会の現実を著したものです。

では、ITUの事務総局長はどうやって決まるのか。
これはもちろん選挙です。
各国代表が1票を持つ選挙で選ばれます。
そして国際機関の選挙というものは、国や地域間での権力争いの面もあり、そうしたITU事務総局長選挙の実態がこの本の前半で描かれます。
先進国と発展途上国の対立。アフリカやアジアなど地域間の利害。
日本で言えば発展途上国へのODA(政府開発援助)やアメリカとの関係などです。

そして後半は内海氏がITUの事務総局長になってからの話。
具体的には国連世界情報社会サミットの開催を巡るあれこれが描かれます。
時は2000年前後。
この頃はインターネットの黎明期の終盤。
前述の通りITUは無線通信、電気通信を司る機関ではありますが、インターネットは民間で発達してきたこともあって、ITUの管轄かは微妙なところでした。
こうしたインターネットと国際社会を巡るあれこれも描かれます。

この本の見どころはやはりITUの元事務総局長が書いたという点。
表には決して出て来ない裏事情などから国際社会のリアルがわかります。
特に日本が国際社会においてどのように動いているのかが当事者の目線から書かれている点がとても貴重です。
我々が納めている税金が一体どのように国際社会で使われているのかも知ることができる本です。

一方で留意しておかなければならないのは、著者もまた当事者だということ。
第三者の目線から中立的に書かれた本ではないため、ある程度のバイアスがかかっていることを理解した上で読むべき本です。
そのことさえ理解しておけば、多少古い本(2008年発行)ではありますが、国際社会・国際政治・国際力学を理解する上で極めて有用な本であると思います。

ITUの元事務総局長が書いた国際社会の実態。
是非お読みください!

単行本

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。