【書評・紹介】『ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版』 服部正也

2022年8月11日自伝,国際政治学,SDGs・持続可能な社会を考える上で読んでおきたい本,エッセー・随筆,経済学,教養書,政治学,伝記,ドキュメンタリールワンダ

ルワンダ中央銀行総裁としてルワンダの経済再建に取り組んだ一人の日本人の著書

著者:服部正也

読みやすさ
わかりやすさ
考えさせられる度
専門性 並~やや高い
電子書籍 有り
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あらすじ

一九六五年、経済的に繁栄する日本からアフリカ中央の一小国ルワンダの中央銀行総裁として着任した著者を待つものは、財政と国際収支の恒常的赤字であった――。本書は物理的条件の不利に屈せず、様々の驚きや発見の連続のなかで、あくまで民情に即した経済改革を遂行した日本人総裁の記録である。今回、九四年のルワンダ動乱をめぐる一文を増補し、著者の業績をその後のアフリカ経済の推移のなかに位置づける。

ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版|新書|中央公論新社 (chuko.co.jp)

受賞歴

第26回毎日出版文化賞 受賞 (『ルワンダ中央銀行総裁日記』として)

書評

皆さんはルワンダをご存知でしょうか?

ルワンダは東アフリカに位置する小国です。
周囲を陸に囲まれた内陸国でありながらも、「アフリカの奇跡」、「被援助国の優等生」とも評される急激な経済成長を遂げ、現在はIT立国を志向しています。

尤も、多くの方はそういった一般情報よりも「ルワンダ虐殺」のあった国という印象が強いと思います。

本書はその「ルワンダ虐殺」があった1994年よりも前。
1965年~1971年にかけてルワンダ中央銀行の総裁を務めた服部正也氏が当時を振り返って書いたものです。

本題

中央銀行の役目は「政府の銀行」と「銀行の銀行」。
通貨価値の安定や金融政策を司る「通貨の番人」です。

しかし、当時のルワンダは慢性的な財政赤字に外貨不足。
独立から4年しか経っていない、アフリカの最貧国の一つでした。

そんな中で国際通貨基金(IMF)の依頼によって赴任した著者は、大統領の信任を受けルワンダ経済全体を見、経済再建計画を立案・実行することとなります。
言ってしまえば、これが「アフリカの奇跡」の始まりと言えるかもしれません。

一つに経済と言ってもこの単語は多種多様な概念を包含しています。
ではこの経済再建計画における経済とは何か。
端的に言えば全てです。
財政から予算策定から、通貨改革、法制、税制、農業の振興までありとあらゆることが計画に含まれています。
しかし、これらは作中の言葉を引用すると、

「今まで経済はむつかしいものと思っていたが、あなたの話を聞いていると、私のような小学校教師の教育しかないものでもよくわかる。本当にそんな簡単なものですか。
(中略)
「ルワンダは途上国だからこそ経済は簡単なのです。

ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版 214ページより

と、簡単なものであることが述べられており、
実際読んでいても、筆者の解説がわかりやすいこともあってか、経済学を本格的に勉強したことがなくても容易に読めるものでした。

そして何より、この本のジャンルは何かと考えた時、
「経済学の教養書」であるというよりも、
「自伝」、「ドキュメンタリー」といった、ある種の「サクセスストーリー」であると言ったほうがしっくり来ます。
即ち、「中央銀行総裁としてルワンダに着任した著者が、ルワンダの経済を立て直すまでの物語」と評するべき作品です。

尤も、他の類似作品同様、著者の主観が色濃く反映されているであろう点は考慮した上で読まなければなりませんが、裏を返せばそれだけ当事者が何を考えどう動いたかが記されている本とも言えます。

発展途上国の経済を立て直す、所謂「開発経済学」を学ぶ上でも、日本人の当事者が記した本書はとても貴重な文献となるはずです。

<増補1>ルワンダ動乱は正しく伝えられているか 服部正也

1994年のルワンダ動乱(ルワンダ虐殺)を受けて、筆者が記した文章です。
主題はメディア・報道に対する批判や、ルワンダ動乱の考察、そして日本の果たすべき役割について。
本題の部分よりも一層著者の主観が色濃く反映されています。
それだけならば問題はないのですが、中には

カイバンダ大統領の夫人も、ハビャリマナ大統領の夫人もツチ族である

ルワンダ中央銀行総裁日記 増補版 310ページより

など、明確な誤り(ハビャリマナ大統領夫人はツチ族ではない)が指摘されている部分も存在しています。
ルワンダ中央銀行元総裁というルワンダを知っている日本人が記した文章と考えれば貴重ですが、内容の正確性などを鑑みると果たして本書に収録すべきだったのかは疑問です。

<増補2>「現場の人」の開発援助哲学 大西義久

正式な題は「<増補2>「現場の人」の開発援助哲学――その後のルワンダ・アフリカ経済と東アジア経済の比較を踏まえて」。

日本銀行の人事局長などを歴任された大西義久氏による文章です。
題の通り、アジアとアフリカの経済を比較し、その上でルワンダ・本書について言及しています。

総評

中央銀行総裁としてルワンダの経済再建に取り組んだ日本人の著書。
ルワンダを知る上で、開発経済の実態を知る上での良書です。
そしてある種のサクセスストーリーとして読んでも面白い本。
是非お読みください!

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。