【書評・紹介】『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』
第196回国会に提出された内閣不信任決議案についての枝野議員による趣旨説明。
日本の政治史に残る、わかりやすく考えさせられる演説。
| わかりやすさ | |
| 考えさせられる度 | |
| 電子書籍 | 有り |
あらすじ
’18年7月20日、森友・加計問題、働き方改革法案でのデータ偽造、そして公文書改ざん問題と、憲政史上稀に見る不祥事が連続し、大阪北部地震や北海道、西日本の水害までも起きた第196回国会は、’18年7月20日に実質的な最終日を迎えていた。
「安倍政権が不信任に足る7つの理由」|書籍詳細|扶桑社 (fusosha.co.jp)
未曾有の水害が拡大している中にも、政府与党は重要法案と位置付けるカジノ法案(IR実施法案)や参議院定数増などを成立させるため、野党側が災害対策に力を入れるよう国会審議の一時中断と災害対応への全面協力を申し出ているにもかかわらず、政府与党はそれらの申し出を却下し、カジノ法案などを強行採決した。
そんな安倍内閣に対し、野党は共同して内閣不信任案を提出した。 この不信任案決議の趣旨説明演説をおこなったのが、衆院で野党第一党を占める立憲民主党の代表・枝野幸男議員である。
枝野による内閣不信任案趣旨説明演説は、2時間43分の長きにわたった。この演説時間の長さは、記録が残る1972年以降で、衆院最長記録だという。しかしこの演説の特色は演説時間の長さにあるのではない。この演説の特色は、その内容にこそあるのだ。
安倍政権が抱えるさまざまな問題点を指摘することはもとより、議会制民主主義とはなにか、議員内閣制とはなにか、国家とはなにか、政治とはなにかをあますところなく述べている。
この演説は、その正確さ、その鋭さ、そして格調の高さ、どれをとっても近年の憲政史にのこる名演説といってよいものだ。
本書は、その演説の書き起こしを、上西充子・法政大教授と田中信一郎・千葉商科大学特別客員准教授による解説とともに完全収録したものである。
「今の日本の議会制民主主義がどうなっているのか」
「本来、議会制民主主義とはどうあるべきなのか」
そうした議論のきっかけとして、広くさまざまな方に読んでいただけますと幸いです。
書評
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
日本国憲法前文より
(中略)
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
日本国憲法の一文です。
国民主権、そして日本国民の責務を述べています。
本書について語る前に申し上げておきたいことが一つ。
本サイトのポリシーの一つに、記事に政治的信条は持ち込まないというものがあります。
よって、書評において特定の政党や政治家について評価をするつもりはありませんし、またしません。
その上で、
本書は2018年7月20日、第196回国会に提出された内閣不信任決議案についての枝野議員(当時立憲民主党代表)の趣旨説明をそのまま、解説などと共に一冊の本にまとめたものです。
内閣不信任決議案とはその名の通り「国会として内閣を信任しない旨を明らかにする」憲法69条に基づく議案です。
尤も、議院内閣制である日本において、内閣は与党と一体ですから、不信任決議が可決されることは通常考えられません。
現に日本国憲法下において不信任決議が可決された事例は4件しかありません。
即ち、言ってしまえば不信任決議はある種、野党のパフォーマンスに過ぎないわけです。
しかし、本書の元となった演説は今まで毎年のようになされてきた不信任決議案の趣旨説明とは少し違いました。
それは、本書後半、田中信一郎氏の解説でも触れられていますが、与党議員に賛成を迫るものであったことです。
そして何より特筆すべき点は、国民に向けての演説としてなされたものでもあったことです。
この演説は国民へも向けたものであった為に、とてもわかりやすいものとなっています。
私が本書を紹介する1つ目の理由はそこにあります。
2018年の国会では何があったのか。
与党と野党はどうして争っていたのか。
この国会で審議された法案は元より、保守とは何か、憲法とは何か、民主主義とは何か。
そうした政治における基礎を問いかけ、あるいは述べるものとなっています。
私は、政治学は2つに大別されると思っています。
1つは、法や権利、権力、統治など極めて学術的な事柄を扱う政治学。
そしてもう1つは、国民の暮らしへと直結する実学的な政治学。
本書はこの実学的な政治学を学び、あるいは考える上でこの上ない良書です。
これが良いことなのか悪いことなのかについては論じませんが、この演説が行われた2018年から4年経った2022年の今でも、当時の与野党の対立が未だに尾を引いています。
今でも議論されています。
なぜ与党と野党は現在においてもここまで対立しているのか。
本書ほどそれがよくわかる本はないでしょう。
私が本書を紹介する2つ目の理由は、演説としての上手さ。
即ち、文章としての巧みさです。
尤も、途中の言い間違いや文法的誤りも多々あります。
しかし、それが演説です。
何よりこの演説は、前もって作った文章を読んだものではありません。
言いたいことをまとめただけのメモを元に、その場で生まれたものです。
そして、この趣旨弁明演説は2時間43分にも及び、当時記録が残っている限り、憲政史上最長のものとなりました。
アメリカの政治にこのような単語があります。
フィリバスター
日本語に訳すと議事妨害。
長時間の演説によって議事を妨害し、多数派からの譲歩を引き出したりする目的で行われます。
アメリカ上院はその誇りとして、発言時間を制限しないという伝統を持ち、その伝統があるからこそ可能な戦術です。
ただの時間の無駄。
そう思われる方もいるかもしれません。
しかし、アメリカにおいてフィリバスターは比較的好意的に受け止められています。
その理由は『スミス都へ行く』という名作映画で、フィリバスターが正義のための武器として描かれたから。
観客の感動を呼ぶ演説が描かれたからこそ、アメリカでは今でもフィリバスターに好意的な意見が多いです。
2010年には、バーニー・サンダース上院議員が実に8時間半に及ぶフィリバスターを行ったことで注目を集めました。
2016年、2020年のアメリカ大統領民主党予備選挙で注目を浴びたあの議員です。
そしてこの演説が注目を浴びた理由は長さだけではありません。
極めて意味のある、そして国民、観衆の興味、関心を誘うものであったからです。
私は本書に掲載されている演説はそれと同類のものであると考えます。
日本の政治の歴史を語る上で欠かせない演説であると考えます。
わかりやすさは元より、日本の歴史、保守とはなにか、日本が目指すべき未来とは何か。
イデオロギー関係なくこの演説は、筋の通った、意味のある、国民に訴えかける名演説であると言わざるを得ません。
このことが本書を紹介する2番目の理由です。
議論は相手の意見を聞き、それに対して自分の意見を述べることで始まります。
与党支持者であっても野党支持者であってもそれは変わりません。
最初に紹介した憲法前文の一文。
国民の誓いが書かれています。
これを達成するために必要なことは政治に関心を持ち、参加することです。
今一度申し上げますが、私はこの記事に自らの政治的信条を持ち込んではいません。
ひとえにこの本が政治への関心に一役買うと考えたから書いているまでです。
本書を読むことで否定的に思うもよし、肯定的に思うもよし、自らの意見をどこかで公にするもよし。
それが政治参加です。
当時憲政史上最長であった演説を収録し、解説した一冊。
是非お読みください。
単行本
電子書籍
dorasyo329
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