【書評・紹介】『日本の星名事典』 北尾浩一

宇宙,教養書,事典,民俗学

日本のどこからでも見られる星々
しかし、その名前は同じ星であったとしても多岐にわたる
各地の星の名を1冊にまとめた事典

著者:北尾浩一

わかりやすさ
ためになる度
電子書籍 無し
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あらすじ

かつて人びとは、空や山、海など自然景観を見て時を知った。それらは仕事や暮らしと密接に結びついていた。漁のため、農作業のため、季節により変わる星を眺め、名付けた。本書は日本各地に伝わる星の呼び名を収集し解説した。

日本の星名事典 – 原書房 (harashobo.co.jp)

書評

日本各地の星の名前を調べ、1冊の本にまとめた事典です。

昔の人々にとって、星は生きるためのツールの1つでした。
暦が今ほど正確ではなく、星の位置から季節を感じ取り、農耕や漁、時刻の把握に役立てていたのです。

そして今と同じように、美しい星々を愛でてもいました。

そうした生活の中で、人々は星の名前をつけてきました。

和名として有名なところをあげると、

プレイアデス星団 → すばる
ベテルギウス → 源氏星
リゲル → 平家星

(※一般にベテルギウスが平家星、リゲルが源氏星とされるが、著者は逆であるという説を推している。)

などでしょうか。

しかし、例えば「すばる」。
地域によっては「すまる」とも呼ばれています(主に西日本)。

その由来はどちらも

ばる」「まる」(集まってひとるになる)という意味で、ひととこに集まっているプレアデス星団の様子をうまく表現している。

日本の星名事典 おうし座より

またそれらが訛って

スマリ、スマロ、オスマル、スワイ、シマル、ヒバリ、など
各地で呼び名が異なります。

また、東日本などでは
6つに連なることから「ムツラ(六連)」。

沖縄(琉球地方)では
群れていることから「ムレボシ(群れ星)」。

また数が6ではなく7である
「ナナツレブシ(七連星)」
9である
「クヨセボシ(九寄せ星)」
更には、固まっている様子から
「アツマリボシ(集まり星)」や「イッショボシ(一所星)」

などなど、本当にたくさんの名前が地域によって伝承されてきました。

この事典は、その名前と地域、そして由来や生活との関わり、信仰など
星の民俗学について詳細に記述しています。

第一章では、冬の星
おうし座、オリオン座、おおいぬ座、こいぬ座、ぎょしゃ座、ふたご座、りゅうこつ座

第二章では、春の星
おおぐま座、こぐま座、しし座、からす座、かんむり座、うしかい座、おとめ座

第三章では、夏の星
こと座、わし座、はくちょう座、いるか座、さそり座、いて座

第四章では、冬の星
カシオペヤ座、ペガスス座、アンドロメダ座、さんかく座、みなみのうお座、みずがめ座、やぎ座

また付編として
明けの明星、宵の明星、流星、彗星、同定できていない星名

に分けて収録されています。

惜しむらくは、日本の星名事典と言いながら、アイヌの星名が含まれていないことでしょうか。
本書の最初でもそのことについて著者から言及されており、
アイヌの星名については『人間達アイヌタリのみた星座と伝承』を読むように書かれています。

しかしそうであったとしても、日本各地の星名が集められていることに違いはなく、本当にすごい事典です。

時代が進むに連れ失われてしまった名前もあることだと思います。
しかし、こうやって本という形になることで、誰かへと伝わるかもしれない。

何より、星の名前一つ一つに物語がある。
その全てが記されているわけではありませんが、絶対にあるはずです。

星の別名を調べるための事典として有用なのはもちろんのことですし、
星と人々の生活や信仰を知るためにも有用でしょう。

しかし私はそれよりも、星の名前を知ることで
人と星の歴史に想いを馳せる。
そういった読み方をおすすめしたいです。

著者はあとがきで次のように述べています。

許されることなら、もう少し現世で調査研究を続けて加筆修正をして事典をさらに大事典へと発展させていきたい。しかし、執筆中に二度にわたる手術、癌闘病があった。いつまで歩き書き続けることができるかはわからない。この仕事を引き継いでくれる人が一人でも多く現れるきっかけになれば――という願いをこめて、本書を世に送りたい。

日本の星名事典 あとがきより

願わくば、この本が1人でも多くの人に読まれますよう。
そう思いここで紹介させて頂きました。

是非お読みください。

単行本

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。