『おおかみこどもの雨と雪』と「笑顔」
おおかみこどもの雨と雪について
細田守監督によるアニメ映画です。
小説の紹介はこちら。
この『おおかみこどもの雨と雪』にはいつくかのテーマが設定されていると私は思います。
細田守監督と言えばの「家族」というのもそうですし、
「都市と田舎の対比」もそうであると思います。
そんな中で私は「笑顔」に注目してみました。
※ネタバレを含みます
笑顔
小説版の一章で描かれる花のキャラクター性を象徴する言葉は
「笑顔」と「誰にも頼らない」の二つであると思います。
まずは、「誰にも頼らない」。
花は父親を亡くしており、家族がいませんでした。
しかし、叔父夫婦は一緒に住まないかと誘ってくれ、叔母夫妻は学費を払うと言ってくれました。
花は決して一人ではなかったのです。
にも関わらず、花は申出を断りました。
他にも、バイトを辞める際には店主から熱心に引き止められ、できることがあったらなんでもするとまで言ってもらいました。
しかし、花はここでも申出を断ります。
また、おおかみこどもという特殊性を鑑みれば当然の判断とも言えますが、育児・出産についても誰にも頼りませんでした。
お金のこともそうですし、何から何まで基本的に一人で対処しようとしました。
彼が亡くなってからは本当に一人です。
人に頼ることのできない花が悪いのでしょうか。それとも、花が頼ることのできない周囲の人々、社会が悪いのでしょうか。
そもそも人を頼らないという選択は悪いことなのでしょうか。
そして「笑顔」。
笑顔は一見するとポジティブな言葉です。
ですが、花の笑顔は決してそうであるとは言えないと私は思います。
父の葬式の時の笑顔、彼が亡くなった時の笑顔、疲れて寝ている時に雪に呼ばれて返す笑顔。
言ってしまえば、自分の感情をひた隠した結果の笑顔と言えるのではないでしょうか。
ある意味、悲しい笑顔であると思います。
しかし、二章ではまた違う笑顔へと変わっていきます。
田舎へと引っ越してきた花たち。
野菜づくりを始めるも失敗の連続。
それでも笑顔を絶やさない花
「かあさん……」
おおかみこどもの雨と雪 95ページより
声がして、ハッと振り返った。
「わたしたち、これからどうなるの?」
(中略)
「……だめねおかあさん。もっと勉強しなきゃ」
と無理やりに笑顔を作った。
そんな花の笑顔に初めて物申したのが韮崎のおじいちゃん。
「笑うな」
おおかみこどもの雨と雪 98ページより
「……!」
「なぜヘラヘラ笑う」
「――」
「笑ってたらなにもできんぞ」
笑顔が凍りついたまま見送る花。
しかし、じゃがいもづくり、そして周囲の人々の協力の影に韮崎のおじいちゃんがいたことを知った花。
「気に入らない」
おおかみこどもの雨と雪 122ページより
「え?」
(中略)
「どうしてそういつもヘラヘラ笑っている」
その物言いに、思わず花は吹き出していた。
「クククククク……!」
「笑うな」
「アハハハハハハハ……!」
もちろん失礼なのはわかっている。だが失礼だと思えば思うほど、可笑しさがこみ上げてきた。
花は韮崎がたまらなくいとおしかった。いとおしいのにどうしてこんなに可笑しいのだろう。可笑しくてしょうがなく、腹をかかえて笑った。こんなにも笑ったのは、彼と過ごしたとき以来ではなかったか。
無理に作った笑顔ではなく、自然とこぼれた笑み。
誰にも頼らず頑張ってきた都会での笑顔から、韮崎のおじいちゃんを始めとする人々にある種無理やりに頼らされた田舎での笑顔に。
花に必要だったのは、
一緒に住まないかと誘ってくれる人でもなく
学費を払うと言ってくれる人でもなく
バイトを辞める時に熱心に引き止めてくれる人でもなく
無理やりにでも強引に自分を頼れと行動してくれる人だったのではないでしょうか。
都会の希薄な人間関係と田舎の濃密な人間関係。
どちらが良いという話でもありませんが、田舎であったからこそ、花は自然と笑顔になったのだと思います。
そして三章、四章と花の物語から雨と雪の物語へと移り変わっていきます。
そんな中で最後に描かれる花の笑顔は雨との別れの場面。
花は、思わず、小さく、
おおかみこどもの雨と雪 260ページより
「元気で……」
とつぶやいていた。
そして――、いっぱいの笑顔を向けた。
「しっかり生きて!!!」
花は、清々しい笑顔で、もういちどつぶやいた。
おおかみこどもの雨と雪 261ページより
「…………元気でいて……」
一章の感情を覆い隠すかのような笑顔。
二章の自然とこぼれた笑顔。
では、四章の笑顔は。
もうここまで来たら説明するのは野暮ですね。
ご存知の通り、本作の原作はアニメ映画です。
アニメの良いところは、視覚によって視聴者によりダイレクトに訴えかけられるところ。
映画の中で描かれる花の笑顔を比べてみると、また新しい発見があるかもしれません。
dorasyo329
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