【書評・紹介】『夏とレモンとオーバーレイ』 宮原都、Ru
心打たれること間違いなし。
「私の葬式で遺書を読んでくれませんか」という依頼から始まる、違う世界を生きる二人の女性の物語。

原作:Ru
| ストーリー | |
| 描写 | |
| 絵 | |
| 感動度 | |
| 独自性 | |
| 電子書籍 | 有り |
あらすじ
本業の仕事が来るのは稀、配信でのわずかな投げ銭とコンビニバイトで食い繋いでいる声優の「ゆにまる。」は、大企業勤めのキラキラしたOL・紺野さやかから「私のお葬式で遺書を読み上げてほしい」という予想もしない依頼をされる。 訝しみつつも金額に目がくらみ、依頼を受けることにしたゆにまる。だったが、肝心の紺野は遺書の内容を決めるための会議と称して遊びまわっていて…。 夢、生活、人生の豊かさ…"レイヤー"の違う二人は、それぞれの傷に触れながら一度だけの夏を過ごす。
作品紹介 | コミック百合姫 | 一迅社 (ichijinsha.co.jp)
受賞歴
第3回百合文芸小説コンテスト コミック百合姫賞 受賞
書評
違う世界で生きていた二人の女性の物語です。
まずは色々とごっちゃごちゃになっているカテゴリーについて釈明を。
第一に、本作は漫画です!
ではなぜ小説を付けたのか。
それは、カバー裏に短い小説が載っているから。
そして青春漫画と付けましたが、恐らく分類としては間違いです。
二人は青春が指す年代の人物ではありません。
ただ、読んでいてこれは青春だろうと。
ある一面において、これは失ってしまった青春を取り戻す物語とも取れるのではないかと。
まあ舞台は春ではなく夏ですけど。
次に百合。
原作が『百合文芸小説コンテスト』受賞作ですから、まごうことなき百合です。
しかし、百合は百合でも
二人の女性が織りなす物語であるという意味の百合です。
この二人の関係性が、恋愛なのか友情なのか。それとも他の何かなのか。
私自身は、カテゴライズすることのできない関係であると思いましたが、読者の解釈によると思います。
という言い訳を述べた上でメインである漫画『夏とレモンとオーバーレイ』、そして小説『天気雨』について。
夏とレモンとオーバーレイ
「夏」と「レモン」はわかりますよね。
「オーバーレイ」は、重ね合わせるとかそういった意味合いです。
あらすじにある「夢、生活、人生の豊かさ…"レイヤー"の違う二人」。
レイヤー(層)の違う二人を重ね合わせた、二人の人生が被さった、みたいな意味合いでしょうか?
絵は表紙のタッチそのままです。
目の描き方がもろ好みでした。
明るさがある時とない時と。。。
モノクロ漫画ならではの白と黒の背景色、文字色の使い方も良いですよね。
あるいは、文字だけの一見無駄なようなコマ、余白があるからこそ引き込まれるのもそうですし。
そんな本作を一言で表すのなら、やはり「小説的漫画」になると思います。
あるいは「詩的漫画」か。
個人的に原作となった小説がある漫画というのは二種類に分けることができると思います。
小説で描かれた物語を漫画にした作品と
小説を漫画という技法を用いて表現した作品とに。
なんというか、言語化はしにくいですが、小説と漫画には文と絵という違い以外にも、構成としての違いもあると思うんです。
もちろん全ての作品がというつもりは毛頭ありませんし、何なら自分の意見が正しいとも思わないですけど、
例えば、小説は読者に解釈の余地を多く与える一方、
漫画は解釈の余地を狭めることで描写の解像度を上げているとか、
あるいは、小説はその登場人物がその登場人物である必要性が薄いのに対して
漫画はその登場人物はその登場人物でなければならないというか、
小説と漫画の間にあるのがライトノベルやライト文芸にある作品というか。
小説は、読者が自身を自己投影できることに比重を置いているのに対し、
漫画は、物語のキャラクターを見て読者がどう思うかに比重を置いているというか。
なんだか自分で書いててよくわからなくなってきましたが、
私は本作を読んでいて、漫画よりも小説を読んでいるように感じました。
そして、そこが個人的にとても好きな部分でした。
自分とは見た目も属性も全く異なるのに、まるで自分が追体験しているかのように読み進められたというか、なんというか。
言葉にするのは難しいですが、要はこの作品が大好きで感動したって話です!
そもそも取り合わせが良いですよね。
「夏」、「レモン」、「オーバーレイ」。
二人の女性を結んだのは「私の葬式で遺書を読んでくれませんか」という、ある意味でおどろおどろしくも感じる依頼。
1話1話のタイトルも好きです。
第1話 遺書声優とインスタ女
第2話 彼女はレモン、あたしはグレープフルーツ
第3話 口止めバスソルト
第4話 意地
第5話 夏色フォトグラフ
第6話 長風呂タイムレコーダ
第7話 夏の終わり、早朝ブランコ
第8話 いかないで
単語をぱっと置かれただけだから意味はわからないけれど、
読んだ後に改めて見ると納得するタイトル。
レモンとグレープフルーツには、花言葉の意味も込められているのかなとも思ったり。
レモンが「思慮分別」、グレープフルーツが「乙女の無邪気」。
まあこの場合は、「思慮分別」と比べると「深い考えのないこと」とかでしょうか。
そして肝心のストーリー。
まず、住む世界が違う二人が共に紡ぐ物語というある意味よくある展開ですが、
そうした物語に外れなどあろうはずがありません。
そして色々と置かれる謎、張られる伏線。
「葬式で遺書を読んで欲しいという依頼」もそうですし、
なぜさやかはゆにまる。を選んだのか。
本来会うことのなかったであろう二人の物語の帰結も良かったです。
その帰結、物語の最後、二人の行き着く先を読んで思ったのが「青春」の二文字でした。
なんというか、誰もが一度は経験することなんじゃないかなと思います。
それを的確に言い表す言葉が「青春」であり、本作はその「青春」をやり直す物語だったんじゃないかなと。
天気雨
カバー裏は読み終わってから見るので、この小説の存在に気がついたのも『夏とレモンとオーバーレイ』を読み終わった後のことでした。
そして感じたのは、答え合わせみたいな物語だなと。
加えて、小説であり、また詩でもあるような作品だなと。
『夏とレモンとオーバーレイ』という物語って、多分正しい物語ではないと思うんです。
その正しくないからこその美しさを描いた物語だと。
それをこの『天気雨』を読んで、その言葉の選択からそう感じました。
読むのならやっぱり、『夏とレモンとオーバーレイ』を読んでから『天気雨』だと思います。
なんなら『天気雨』は『夏とレモンとオーバーレイ』自体のネタバレ作品ですし。
でも、その結末を知ってから読む過程の物語としての『夏とレモンとオーバーレイ』も良さそうだなと思わなくはなく。。。
まあそれでも、順番はやっぱり『夏とレモンとオーバーレイ』が先だと思います。
「私の葬式で遺書を読んでくれませんか」という依頼から始まる、違う世界を生きる二人の女性の物語。
是非お読み下さい!
心打たれること間違いなしの一作です。
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電子書籍
dorasyo329
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