【書評・紹介】『カウントダウン・メルトダウン 上・下』 船橋洋一
東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所事故
あの時何が起こっていたのか
民間事故調の調査を指揮した筆者が緻密な取材のもと当時のあらましを明らかにする
| 読みやすさ | |
| 考えさせられる度 | |
| 専門性 | やや低い |
| 電子書籍 | 有り |
- 1. あらすじ
- 2. 受賞歴
- 3. 書評
- 3.1. 序章 全交流電源喪失
- 3.2. 第1章 保安院検査官はなぜ逃げたか
- 3.3. 第2章 原子力緊急事態宣言
- 3.4. 第3章 ベント
- 3.5. 第4章 1号機水素爆発
- 3.6. 第5章 住民避難
- 3.7. 第6章 危機の霧
- 3.8. 第7章 3号機水素爆発
- 3.9. 第8章 運命の日
- 3.10. 第9章 対策統合本部
- 3.11. 第10章 自衛隊という「最後の砦」
- 3.12. 第11章 放水
- 3.13. 第12章 トモダチ作戦
- 3.14. 第13章 海軍vs国務省
- 3.15. 第14章 ヨコスカ・ショック
- 3.16. 第15章 ホソノ・プロセス
- 3.17. 第16章 最悪のシナリオ
- 3.18. 第17章 キリン登場
- 3.19. 第18章 SPEEDIは動いているか
- 3.20. 第19章 飯舘村異変
- 3.21. 第20章 計画的避難区域
- 3.22. 第21章 落城一日
- 3.23. 神の御加護
- 4. 単行本
- 5. 文庫本
- 6. 電子書籍
あらすじ
政府や官庁からまったく独立した科学者や弁護士、ジャーナリストらのチームが福島第一原発事故の原因と被害の拡大について調査した「福島原発事故独立検証委員会調査・検証報告書」は、2012年3月に発表され大きな話題となりました。
『カウントダウン・メルトダウン 上』船橋洋一 | 単行本 – 文藝春秋BOOKS (bunshun.jp)
書籍化した報告書は10万部を超えるベストセラーになり、報告は、「民間事故調の報告」として内外のメディアが繰り返し報道しました。
その「調査」を指揮、プロデュースした船橋洋一氏が、この「民間事故調」での調査以降も独自に、ワシントンの要人、内閣の閣僚、浪江町、飯館村、などに取材をし、福島第一原発事故の「世界を震撼させた20日間」をノンフィクションとして描きます。
極限状況下で、日本政府、アメリカ政府、軍、東電はどう動いたか、神は細部にやどるといいますが、様々なエピソードが叙事詩のように詰みあがっていきます。
特に、アメリカ国務省の要人、米NCR要人らによるインタビューによって、初めて米国があのときどのように動いたかがこの本で初めて明らかになります。
受賞歴
第44回 大宅壮一ノンフィクション賞 受賞
書評
福島第一原発事故について、政府、国会、東電、自治体、アメリカらの動きを各項目ごとに振り返った書籍です。
原発関連の用語や法律関係の用語が飛び交いますが、初出のところで説明されているため基礎知識はそれほどいりません。
原発事故を巡ってはあの事故から10年経った今も裁判が続いており、その責任の所在や適切な対応だったのかなど様々な議論が各所で交わされています。
そうした議論を行うために必要な共通理解が「事実」です。
この本はその「事実」を取材を元に記しています。
筆者の主張も最大限抑えられ、あくまで当時何があったのか、当事者たちは何を語ったのかを記しています。
福島第一原発事故を忘れない、そして二度と同様の事故を起こさない。
そのためには何が必要なのか考えるための知識を得る本として最適な一冊です。
それでは、各章ごとに紹介していきます。
序章から第11章までが上巻。
第12章から終章が下巻です。
序章 全交流電源喪失
地震発生から全交流電源を喪失するまでの福島第一原発の様子、動きが記されています。
第1章 保安院検査官はなぜ逃げたか
福島第一原子力発電所の敷地内に留まっていた4人の保安検査官が5km離れたオフサイトセンター(緊急事態応急対策拠点施設)に退避した理由に迫る。
具体的には当日のオフサイトセンターでの動きを保安検査官、現地本部長である池田経産副大臣(当時)、医師、自衛隊の項目に分け記しています。
防災計画通りに人が集まらず、また停電し通信も麻痺したオフサイトセンターを検証する章です。
第2章 原子力緊急事態宣言
原子力緊急事態宣言を発令するまでに至る閣僚、官僚らの動きを追い、その後の電源車輸送や会見、保安院の中村幸一郎審議官更迭事件などにも触れます。
原子力緊急事態宣言は、主務大臣、関係指定行政機関の長、地方公共団体の長、原子力事業者に対し必要な指示をすることができるという強大な権限を首相に与えることのできる宣言です。
しかし、当日この宣言に至るまでに1時間半ほどの遅れが生じました。その経緯に迫ります。
また、枝野官房長官(当時)の首都圏帰宅困難者対応、情報対応にも触れます。
第3章 ベント
ベントとは原子炉の格納容器から蒸気を逃がすことで容器の破損を防ぐ措置のことを言います。
そのベントを実施するまでに至る政府・東電の動き、菅直人首相(当時)の福島第一視察や決死隊結成などに触れ、ベントが遅れた原因に迫ります。
第4章 1号機水素爆発
1号機の水素爆発前後の動きや海水注入に至るまでの動きを追います。
ほか、当時ネットで話題となった#edano_nero(枝野寝ろ)や後日問題となった安倍晋三元首相らが提唱した「菅首相の海水注入停止命令」、また格納容器を冷やすために届けられ結局使われることのなかった氷などにも触れます。
第5章 住民避難
ベントに伴う住民の避難を巡る動きを追います。
何キロ圏内を避難区域にするのか、住民のスクリーニング、安定ヨウ素剤の服用、福島県の避難指示と政府の避難指示の重複などに触れます。
また、町長の独断で安定ヨウ素剤を唯一服用し、後にこういう対応を取ってもらいたかったと賞賛されることになる三春町の決断とそれに対する福島県の妨害、失策についても事細かにその動きを追います。
第6章 危機の霧
浪江町、南相馬市、飯舘村の住民の避難を巡る動きを追います。
情報の錯綜、届かない支援物資、土壌汚染の公表とその風評被害、また大熊町・双葉病院の患者の救出を巡る動きにも触れます。
南相馬市桜井市長(当時)のテレビを通じた訴えとそれに応えた泉田新潟県知事(当時)や早々と避難しそのことを事後報告した市立病院、「住民を避難させて、なぜ、職員を避難させないのか」と市長を詰問した公務員など当時の緊迫した状況が明らかになります。
第7章 3号機水素爆発
3号機の爆発(以下の映像)を巡る、現場、東電、政府の動きを追います。東電と現場の軋轢なども描かれます。
第8章 運命の日
3月14日から15日。
東電が官邸に撤退を言い始め、菅首相(当時)が東電に乗り込み、そして1万1930マイクロシーベルトを観測するまでの1日を追います。
東電と政府のやり取りも明らかに。
第9章 対策統合本部
政府と東電による対策統合本部を設置し、海江田経産大臣(当時)、細野首相補佐官(当時)らが東電に乗り込んでからを追います。
東電、保安院、原子力安全員会の関係性の問題点や危機管理センターの動きにも触れます。
第10章 自衛隊という「最後の砦」
地震発生当初からの自衛隊の動きを追います。
また、放水・注水作戦、警察との関係性にも触れます。
第11章 放水
放水作戦に当たった消防、自衛地の動きを追います。
海江田経産大臣(当時)の「今晩中に放水しないなら処分する」という消防への発言の背景には何があったのか。
指示を聞かず、テコでも動かなかった消防の問題点が明らかに。
第12章 トモダチ作戦
東日本大震災における当初のアメリカの動きを日米両政府高官への取材から明らかにします。
アメリカが日本の国家主権への介入を試みたり、国務次官補や統合参謀本部議長が在日米軍を引き上げると日本を脅したり、日米の内幕が明らかにされます。
また、外国からの救援隊受け入れに対し、積極的に受け入れたい外務省や枝野官房長官(当時)と受け入れたくない総務省、警察庁、消防庁の駆け引きなどにも触れます。
第13章 海軍vs国務省
日本に住むアメリカ人への避難勧告を巡って行われた海軍と国務省の駆け引きが明らかにされます。
原発事故に過剰反応し極めて大きい避難区域を設定しようとする海軍となるべく日本国民をパニックに陥らせないよう動く国務省。
第14章 ヨコスカ・ショック
東日本大震災によって引き起こされた横須賀海軍基地でのパニックについてです。
家族の避難を認めるのか、安定ヨウ素剤の配布をするのかなど。
また、空母ジョージ・ワシントンが日本脱出に至るまでの過程が明かされます。
また、アメリカと日本の原発テロ対策を対比し、日本側の問題点を分析しています。
第15章 ホソノ・プロセス
悪化の一途を辿る日米関係を改善しようと、細野首相補佐官(当時)らが日米合同調整会合をセッティングするまでの過程、そして会合の活動が明かされます。この日米合同調整会合のアメリカ側の非公式の呼称が章題の「ホソノ・プロセス」です。
また原発対応をアメリカの特殊部隊に依頼するという不確かな情報の拡散や、アメリカに指揮権を渡してしまえという論調とそれでは占領軍だと反発する防衛省など内部のやり取りが明かされます。
そして最終的な原発事故において日米同盟が果たした役割が好意的に評されます。
第16章 最悪のシナリオ
政府内での助言チームの結成から提言の提出、日米協議、自衛隊内での最悪のシナリオ作成などを明らかにします。
そして最悪のシナリオが現実のものとなったときの総理大臣談話草案もその内容から作成過程まで明らかにされます。
第17章 キリン登場
使用済み核燃料プールの冷却に使われた生コン圧送車・通称キリンが登場すまでの過程が明らかにされます。
また、無人機による原発の空撮、ロボットの導入、馬渕首相補佐官(当時)主導のチーム結成、汚染水の海洋放出に至るまでの過程にも触れます。
第18章 SPEEDIは動いているか
SPEEDIとは放射性物質の広がりを予測するシステムのこと。このシステムのデータは結局公開されなかったわけですが、その過程が明らかにされます。
また現地で活動していたモニタリングチームの測定活動など、今まで余り触れられてこなかった文科省の災害対応について触れます。
第19章 飯舘村異変
SPEEDIの分析の結果飯舘村でものすごい数字が出たというところから、避難区域の設定議論、専門家同士の言い合いなど飯舘村の自主避難に至るまでの過程が明かされます。
第20章 計画的避難区域
計画的避難区域設定に至るまでの過程が明かされます。
政府側の対応と飯舘村の菅野村長(当時)ら自治体の対応、また政府とは別に専門家が独自に分析し避難に役立てた事例などにも触れます。
第21章 落城一日
福島第一原発、現場での窮状を明らかにする章です。
水不足、現金不足、東電本社との対立、人手不足、労働環境改善のための海王丸の派遣など詳細に語られます。
また、協力企業の活動にも触れています。
更に東電本社の動きを振り返ります。
神の御加護
現場の人間、政治家、官僚らが当時を振り返る章です。
菅首相だったからこうなったのか、菅首相だったからこれで済んだのか、原発対応における民主党政権は悪夢だったのか否かを検証します。
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