【書評・紹介】『サラリーマン球団社長』 清武英利

2022年8月19日伝記,ドキュメンタリースポーツ,清武英利,広島,兵庫

何故、阪神は星野監督になって勝てたのか
何故、カープはファンに愛され三連覇できたのか

二つの球団にそれぞれ誕生したサラリーマン球団社長の軌跡と共に
球団の内部事情にも迫る一冊

著者:清武英利

読みやすさ
電子書籍 有り
広告

あらすじ

「僕は“この人”の一言でカープ復帰を決断した」
黒田博樹(元広島カープ投手)

「星野(仙一)さんと“この人”がいたから、タイガースは優勝できた」
金本知憲(阪神タイガース前監督)

旅行マンから阪神タイガースに出向した野崎勝義。経理部員から広島カープに転じた鈴木清明。野球の素人だった彼らは、ある日を境に突然、球団運営に身を投じることになる。「営業収益アップ」「商品販売の効率化」「上司の理不尽な命令」「異例の人事異動」「業務のデジタル化」……異端な2人のサラリーマンが“どん底”球団の優勝にむけて行った改革とは!?『しんがり』『石つぶて』の著者が放つ渾身の企業ノンフィクション!

『サラリーマン球団社長』清武英利 | 単行本 – 文藝春秋BOOKS (bunshun.jp)

書評

清武の乱でお馴染み。
巨人の元球団社長・清武英利氏によるノンフィクションです。

と言っても、この『サラリーマン球団社長』で描かれるのは清武氏や巨人ではありません。
セ・リーグはセ・リーグでも「広島東洋カープ」と「阪神タイガース」。
その球団社長を務めた2人のサラリーマンの話が本書の主題です。

阪神 野崎勝義

1人目は元阪神タイガース球団社長・野崎勝義氏。

良く言えば熱狂的なファンに恵まれている。
悪く言えば下品で民度が低い。
そんな阪神タイガースに親会社であった阪神電鉄から出向させられた野崎氏。
実は野球の素人。

口うるさい親会社、チケット販売のコンピュータ化に抵抗する守旧派、度重なる監督の更迭と選任。
時は1996年から2000年代。
10年以上も優勝から遠ざかっていた暗黒時代。
野村監督がこね、星野監督がついた餅が優勝に繋がるまでの軌跡です。

私には特に印象に残った点が2つありました。

1つはBOS(Base Ball Operation)システム。
簡単に言うと、選手の能力を数値化したデータベースのようなもの
日本ハムファイターズの吉村浩・現統括本部長が導入し、2006年のファイターズ優勝&日本一の原動力の1つとなったことでも知られます。

しかし恐らく、日本で初めてこれを導入したのは、実は阪神タイガース。
それぞ実現させたのが野崎氏であり、その過程で採用したのが吉村氏。
日ハムの前は阪神にいたんですね。
しかし、古参のスカウト達に抵抗され、本格導入には至らず。
その内に、吉村氏は日ハムに引き抜かれてしまいます。

こんな感じで、阪神が何故勝てなかったのかがわかるような事例が明らかになります。

もう1つはプロ野球再編問題。
古田敦也氏が選手会長として世論を味方に2リーグ制を維持したあの事件です。
この時に阪神の球団社長だったのが野崎氏。
再編問題に絡む、独裁者・渡邉恒雄率いる巨人とその他球団のやり取りなどが赤裸々に明かされます。
球団側の内枠が明かされているという点で必見です。

広島 鈴木清明

2人目は現広島東洋カープ球団本部長・鈴木清明氏。

カープと言えばご存知の通り市民球団。
そして「貧乏」球団として知られていました。

そんな中奮闘するのが鈴木氏。
松田元オーナーから次々とされる無茶振りに応え、時に野球とは全く関係のないフィットネスクラブの運営、時に若手選手らを引率してのアメリカ留学。
お金がないからこそのアイデア勝負が次々と描かれます。

そんな鈴木氏の話の核となるのが選手との交渉。
広島はお金がないですから、選手はFAで取られていくばかり。
そこをなんとか引き留めようとする鈴木氏。

そんな選手との交渉の最たる例は、黒田博樹選手の広島復帰でしょう。
帯にも書かれている通り、黒田選手がカープ復帰を決めたのはこの鈴木氏がいたから。

そのあらまし、そしてセ・リーグ三連覇に至る過程が生き生きと描かれています。

総評

こうした2人の人生が元記者らしい清武氏の文章によって上手く描写されています。
ただ一つ気になった点が野村監督のID野球。
このIDとはImport dataであって、Important dataではありません。
しかし本書ではImportant dataが使われています。
はてさて?

とまあ気になる点はありますが、全体としては非常に面白い作品です。
阪神、広島のファンでなくとも、野球ファンであるのならば十分楽しめる作品です。

文春での連載を一冊にまとめたドキュメンタリー。
是非お読みください!

単行本

電子書籍

The following two tabs change content below.
自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。