【書評・紹介】『豊田章男が愛したテストドライバー』 稲泉連

2022年8月19日教養書,伝記,ビジネス書,ドキュメンタリー豊田章男

トヨタが誇るマスターテストドライバー・成瀬弘の人生
そして、豊田章男との関係を描くビジネスノンフィクション

著者:稲泉連

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電子書籍 有り
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あらすじ

この男なくしてトヨタ再生は語れない!
社長就任発表後、試練の嵐は吹き荒れた。
59年ぶりの赤字転落。レクサス暴走事故を巡って米公聴会出席。東日本大震災の対応にも追われた。
“どん底”の豊田章男を支えたのは、開発中の事故でこの世を去ったテストドライバー・成瀬弘の言葉だった。
「人を鍛え、クルマを鍛えよ」
育ちも立場も世代もまるで異なる
師弟が紡いた巨大企業再生の物語――。
これは世界最大の自動車メーカーの開発の現場に立ち続けたテストドライバーと、その後ろ姿を追い、今は社長の座に就いた男が、長年にわたって築き上げた師弟の物語である――本書序文より。

豊田章男が愛したテストドライバー | 書籍 | 小学館 (shogakukan.co.jp)

書評

成瀬弘。
ご存じの方も多いと思います。
トヨタのマスターテストドライバーと言えばわかる人は更に増えるでしょうか。
この本は、その成瀬弘の人生をその周囲の人々の証言から明らかにしたビジネスノンフィクションです。

まずそもそもテストドライバーとは何か。
テストドライバーは一言でいうと販売前の車に乗ってその性能や乗り心地をテストする職業です。
本書では「味付け」という言葉で言及されています。

その上で成瀬氏はマスターテストドライバー。
トヨタのテストドライバーのトップに君臨する存在でした。

はい、「でした」です。
成瀬氏は2010年に車のテスト走行中に亡くなっています。
この本の著者、稲泉連先生はその死亡事故の記事を見て、興味を抱き、トヨタの豊田章男社長を始めとした成瀬氏と関わった人々に5年に渡る取材を行った末に本書を出版されました。
つまり、この本は成瀬氏に対する取材は行えていません。
しかし、その緻密な取材から十二分に成瀬氏の人となりなどを描き出せていると思います。

彼はなぜ車に興味を持ったのか、テストドライバーになったのか。
その人生と共に、トヨタの暗黒時代からの巻き返しが描かれます。

そして何よりタイトルの通り、この本の軸となる部分は豊田章男社長と成瀬氏の関係性にあると思います。
二人の出会いは豊田章男氏が社長になる前、取締役時代に遡るのですが、その時に成瀬氏が発した言葉は

「運転のこともわからない人に、クルマのことをああだ、こうだと言われたくない」
「月に一度でもいい、もしその気があるのなら、俺が運転を教えるよ」

豊田章男が愛したテストドライバー 214ページより

というものでした。
取締役に対して開口一番こうしたことを言う、正に技術屋と言っていいような成瀬。
この出会いの後、「豊田章男が愛した」と言い表されるような関係性になるまでに二人の間には一体何があったのか。

豊田章男氏はもちろんトヨタの社長として知られていますが、他にもいくつか顔を持っています。
その一つがレーシングドライバー。
モータースポーツライセンスも取得し、国内外様々なレースに参加してきた顔を持ちます。
このきっかけとなったのも、成瀬弘という存在であることがこの本を読むことでわかります。

そして豊田章男氏のみならず、成瀬氏は様々な人に多大な影響を与えてきました。
今のトヨタ自動車の精神というかにも成瀬氏の考えが大きく影響しているように思います。
つまりこの本は、成瀬氏と関わった様々な人の言葉から成瀬氏の姿を明らかにすると共に、逆に成瀬氏がそうした人々に与えた影響、遺したものも明らかにしています。

この本を読んだだけで語れるとは決して思いませんが、それでも、今のトヨタあるいは日本の自動車業界の奥底には何があるのか、そういったことを少しわからせてくれるかもしれない本です。

単行本

文庫本

電子書籍

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。