【書評・紹介】『彼女を愛した遺伝子』 松尾佑一

2022年8月19日小説,NL(HL、異性愛),科学(小説),大人(恋愛),年の差,恋愛小説松尾佑一,カスヤナガト

遺伝子は愛情すらも支配する
解析の結果僕と彼女が結ばれる可能性は0%
けれども僕はあなたを愛しています

ストーリー
描写
キャラクター
独自性
結末が気になる度
電子書籍 有り
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あらすじ

これまで恋愛と無縁に生きてきた、遺伝子研究者の柴山と松永。ある日、柴山は女子学生と恋に落ち、それを知った松永は、研究室から失踪した。松永は「愛は遺伝子が決定する」という自らの理論を証明すべく、柴山で人体実験を企む。一方、自らもまた、結ばれる確率が0%と判定された女性に、どうしようもなく心惹かれて……。愛と理論の狭間で苦悶する、純真でせつない“理系”恋愛小説。

松尾佑一 『彼女を愛した遺伝子』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)

書評

愛情を支配する遺伝子を巡る恋のお話です。

遺伝子とはタンパク質の構造を決定する設計図のようなものとよく言われます。人間ではDNA、今話題の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)ではRNAがそれに当たります。
その遺伝子が感情までを支配しているのではないかというのがこの作品の主題です。

実際、人の感情はドーパミンやセロトニンなどのホルモンによって左右されており、それらホルモンを分泌したり受容したりするのが遺伝子を元に作られる細胞である以上、一定程度遺伝子が感情に関与していると考えられています。

では愛情は遺伝子によって左右されているのか。
このことについてはかなり研究が行われており、実際HLA遺伝子という免疫に関係する遺伝子は二人の相性(ペアになりやすいか)に関与していると考えられています

この小説は、関与どころか遺伝子が支配していることを発見してしまった遺伝学者の恋のお話です。

遺伝学についてある程度学ばれたことのある方は読まれている間に色々と疑問点、矛盾点が浮かんでくるかと思いますが、そこは小説、ご愛嬌ということで。

しかし、そこまで非現実的な話でもないので、科学好きな方も十分楽しめると思います。
また、上述したような遺伝学に関する話も作中で平易に説明されているので、学生時代科学が苦手だった、嫌いだったという方でも十分楽しめます。

と科学的な話はここまでにしてストーリーとかの方を。

この小説、恐らく主人公は柴山大介という生物化学者だと思うのですが、ダブル主人公という言葉の方が適切かなというくらい松永洋雄という生物化学者も目立っています。

柴山はノーベル賞を取ると言われながらも若くして亡くなってしまった高名な化学者の息子。
対して松永は「将来悪いことで新聞に載りそうな人」に中学のクラスの卒業前のホームルームで選ばれた過去を持つなど、他者に興味がなく人と関わり合いたくないと思っている。

そんな二人には、同じ研究室に所属している研究者であるということと、「隔離された試験管」と形容できる疎外感を感じながら育ったこと、恋愛をせずに30代前半になったなどの共通点があります。

そんな中、柴山がひょんなことから出会った「ハルカ」という女性を好きになり、松永はそんな柴山の様子とある手紙からインスピレーションを経て、この作品の主題である「愛情を支配する遺伝子」の研究にのめり込んでいきます。

そして情報収集のためある学会に参加したところ、松永も柴山が好きになったという「はるか」に出会ってしまい・・・。

と、二人の今まで恋をしたことがない科学者の女性を巡る恋を対比しながら描かれている感じの作品です。

いい年した大人の初恋を描いていると言われればそれまでなのですが、そこに「愛情を支配する遺伝子」という科学要素、そして「はるか」という女性が加わる事によってとても面白い作品となっています。

科学というある種絶対的な理によって証明されてしまった、僕と彼女が結ばれる確率0%という結果。このことを知った遺伝子研究者達は何を思いどうするのか。
遺伝子工学の博士号をもつ専門家が書いた、愛と遺伝子を巡る物語。
是非お読みください!

単行本

文庫本

電子書籍

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。