【書評・紹介】『ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力』 マデリン・チャップマン

2022年8月19日SDGs・持続可能な社会を考える上で読んでおきたい本,多様性社会の実現を考える上で読んでおきたい本,伝記ニュージーランド

世界から称賛されるニュージーランド首相、ジャシンダ・アーダーンの人生に迫る伝記

著者:マデリン・チャップマン
訳:西田佳子
解説:伊藤詩織

読みやすさ
わかりやすさ
電子書籍 有り
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あらすじ

こんなリーダーが欲しかった!
迅速な判断と、丁寧な発信の結果、2020年、いちはやく新型コロナの封じ込めに成功したニュージーランドの首相、ジャシンダ・アーダーン。
そのコミュニケーション力と、国民に寄り添う共感力は、日本のメディアでも頻繁に紹介され、注目が集まった。
2017年37歳で首相就任。世界で産休をとった初の首相で、当時は事実婚。
2019年、ニュージーランド史上最悪のモスク銃撃事件に鮮やかな手腕で対処、犠牲者に寄り添った。
2020年に単独政権をとると多様性に富んだ組閣をする。
常にリーダーになりたくないと言っていた彼女が首相になったのはなぜか。
世界が注目する新しいタイプのリーダーに迫る評伝!
フェミニズムの観点からも興味深い1冊!

ニュージーランド アーダーン首相 世界を動かす共感力/マデリン・チャップマン/西田 佳子 | 集英社 ― SHUEISHA ―

書評

ジャシンダ・アーダーン首相。
恐らく多くの人がご存知だろう。

世界で初めて産休を取った首相。
世界で初めて国連総会に参加することになったファーストベイビーの母親。
新型コロナウイルスの流行に際し、厳格なロックダウンを導入し国民から支持された首相。
クライストチャーチモスク銃乱射事件の被害者に寄り添い、銃規制を実現された首相。
など、アーダーン首相は遠く離れた日本においても度々報じられてきた。

しかし、アーダーン首相がどのような道を歩んで、史上最年少のニュージーランド首相となったのかを知る日本人は極めて少ないと思う。
この本は、そうしたアーダーン首相の伝記である。

幼少期から、学生時代、見習い政治家、首相への道、首相としての歩み。
それらアーダーン首相の人生を政治家、記者、労働党職員、友人らへの緻密な取材によって明らかにしているのが本書だ。

無論、多くの伝記の例にもれず、本書も終始肯定的にアーダーン首相の歩みが描写される。
しかし、疑問を呈するところは呈しているし、何よりアーダーン首相の人生のみならず、ニュージーランドの歴史やアーダーン首相以前の女性政治家の歩みを共に記すなど、ニュージーランドに詳しくない日本人にとっても、その人生を理解しやすくなっている。

彼女は何故国民に支持されるのか。
彼女は何故世界から称賛されるのか。
その答えの一端が本書にはある。

しかし、その一方で極めて残念であり、この伝記の質を貶めていると言ってもいい部分も存在する。
映像ジャーナリスト・伊藤詩織氏による解説文である。
なるほど確かに、この本を読むことで読者が得た気づきというかを自国、即ち日本に当てはめて考えてみることは非常に重要である。
新型コロナ、難民・移民、LGBTQAIX、多様性etc…..。
しかし、だからこそ、自身の政治的考えをこの場で述べるべきではなかっただろう。
解説文は本の一番最後に書かれている。
たとえ文字数が、ページ数が少なかったとしても最後に書かれているというだけで、読者のその本に対する印象に与える影響は大きい。
そうした場で、自身の政治的考えを述べることの意味を伊藤氏は理解していたのだろうか。

確かに氏の言っていることはまともであり、道理が通っており、少なくとも私は共感し理解した。
しかし、それは私が氏と近い考えを持っているからに過ぎない。
では、異なる考えを持っている人が最後にこの解説文を読んだらどう思うだろうか。

この本のキーワードは『共感力』である。
そのことを踏まえた時、最後の解説文は万民とは言わずとも、多くの人々から共感されるものになっていただろうか。
この本に適した解説文は、自身の考えを述べるものではなく、ここで得られた気づきを自身の行動に活かすよう提案することであったと考える。

この一点を除けば、本書は伝記として間違いなく良書であろう。
多様性社会の実現、そして現代政治を考える上で有用な書であることに間違いはない。
是非お読み頂きたい。

単行本

電子書籍

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自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。