【ネタバレ・考察・感想】『きみと世界の終りを訪ねて』 こるせ

2022年8月19日ネタバレ含む

※重大なネタバレを含みます

ネタバレを含まない書評、紹介はこちら

著者:こるせ

広告

あらすじ

気象制御衛星の暴走、それに端を発する戦争で人類が滅亡してから数百年。
終末を巡る少女たち、その軌跡を描いたポストアポカリプス連作集。

01『再定義する希望』
長いスリープから目覚めたアンドロイドと、クローンの少女。
窓越しに交わされる二人の想い。

02『継ぎ接ぎの希望を抱いて』
世界を終わらせないため奔走した、""オリジナル""の記憶。

03『灯火の機械たち』
終末を旅する二人の少女。
彼女たちが出会ったのは、誰もいない街を照らし続けるアンドロイドだった。

04『きみと世界の終りを訪ねて』
旅を続ける少女たちが、その果てに見出したものは…。

一迅社WEB | インフォメーションポータル | 書籍情報 | きみと世界の終りを訪ねて (ichijinsha.co.jp)

ネタバレを含む考察

ポスト・アポカリプス
文明が崩壊した後の世界を描く連作短編集です。
4編毎に私なりの考察を書いていきます。
ネタバレを含むので、まだ読んでいない方は絶対に読まないでください

他作品との関連

作者のこるせ先生がカバーイラストを担当されたアンソロジー。
その名も『終末世界百合アンソロジー』。
服装も髪型もミミとユユにしか見えません。
表紙以外の登場はありませんが、同じポスト・アポカリプス×百合を描いた作品としてとてもおすすめです!

世界が滅亡した理由

まず、世界が滅亡した理由として作中では

・隕石の衝突による海面上昇(58ページ)
・戦争(あらすじ他)
・気象制御衛星の暴走(あらすじ他)

の3つが上げられています。

一方で、ARCHIVESの年表を辿ると、

2190年頃:海面の急上昇により、月面移住計画開始。
2242年:隕石衝突。→北半球は塵に閉ざされ、食料エネルギー問題、移民問題等が激化。
2243年:大戦勃発。→大気汚染。
2272年:気象制御衛星が暴走。

となっています。
また、20ページのラリベルタのセリフから2243年以前は「地表の94%は海」だったことがわかります。
現在の海洋面積は70.8%ほどですから、どれだけ上昇したのか……。

そして、もうお気づきかと思いますが、年表海面上昇自体は2190年頃から始まっており、
58ページでお上が話している
「巨大隕石落下による海面の上昇で、住む場所を奪い合う人類が世界大戦を起こしてわずか30年」
という言葉との整合性に疑問が残ります。

考えられることとしては

・発言者の男性(局長?)の認識が間違っている。
・年表が間違っている。
・隕石の衝突の前から海面の急上昇は起こっており、隕石の衝突によって更に悪化した

などがありますが、私としては3番目かなと考えました。

まずそもそも隕石の衝突によって、長期的な海面上昇が起こる場合があるのかどうか。
まず、隕石によって津波が発生するのは確かです。
しかしそれは基本的に一過性のものであり、長期的な海面上昇につながることはありません。
あるとすれば、
・隕石が南極などの氷床に落下したことで、それらが破壊され海面が上昇した
・隕石が海中に落下したことで、その体積分海面が上昇した
の2つ。

まず、前者について考えてみると、年表で隕石衝突により北半球が塵に包まれとあることから、隕石が落下したのは北半球であることがわかります。
北半球にある氷と言えば北極が浮かびますが、北極の氷が溶けても質量保存の法則により、海面はそこまで上昇しません。(引用)
一方で、グリーンランドなどにある氷床を破壊し、それらが海に溶けた場合。
仮にグリーンランドにある氷床が全て溶けた場合、海面は6~7m上昇するそうです。(引用)
つまり、衝突した場所によっては最悪5m以上海面が上昇する可能性があります。

次に後者を考えてみます。
最初に考えなければならないのは隕石の体積。
例えばk-pg境界、恐竜絶滅をもたらしたとされる隕石の直径は10.6kmから80.9kmと考えられています。(引用)
隕石を球形と仮定すると、直径80kmの隕石の体積は、大体25万立法キロメートル。
海洋の面積が3億6000万平方キロメートルですから
上昇する海面の高さをxcmとすると
360,000,000(km^2)×0.00001x(km)=250,000
x=69.4cm
仮にこの規模の隕石が海中に落下した場合、海面は大体70cm上昇することになります。

なお、仮に海面が2m上昇した場合、住む場所を失う人の数は2億人と推定されています。(引用)
よって前者の場合でも後者の場合でも、人類社会に多大な影響を与えることは間違いありません。

アンドロイドについての考察

32ページでラリベルタが怪我をした際に出てきた用語や8ページ、138ページで出てきた用語は

・脊髄伝達期間
・左腕部肘関節
・胴体センサ
・人工血液浄化機関
・循環器
・資格センサ
・においセンサー

など。
また、酸素濃度の測定(95ページ)、気温の測定(108ページ)も可能なようです。
ここから、周囲の状況などはセンサによって理解していること
そして、人工血液が体内を循環していることがわかります。

しかし、何故アンドロイドに血液が必要なのか。
人の場合は、酸素及び栄養素、二酸化炭素の運搬に関わっていますが、アンドロイドでは一体…?
作中に食事をしている描写はありませんでしたし、何のための血液なのかは他のSF作品同様謎です。

また、110~111ページのエリザベスの言葉
「アンドロイドの内蔵エネルギー」
「自分の方が残存エネルギーが多い」
から、補給を受けなくてもある程度の長期間活動は可能なようです。

そして166ページ。
「衛星を強制停止させると、すべてのアンドロイドが停止する」
このことから、アンドロイドは衛星(認証システム衛星)と何らかの通信を行っていると考えられます。

キャラクターの名前に関する考察

スペランツァ

エレーナ・タイレル博士のクローン。
1編、2編のタイトルから表記は恐らく「Speranza」。
Speranzaはイタリア語で"希望"。
ARCHIVESによると名付け親はエレーナ博士。

私たちの未来
頼んだよ

54ページ 博士がママにかけた言葉

未来はどうなるかわからない
私はこの先の全てを見届けることはできないけれど
私たちの想いはなくならない
きっと いつまでも

83ページ 博士の言葉

という言葉を鑑みると、博士が"希望"という名を自分のクローンに名付けた理由がわかる気がします。

そして156ページで描かれたママからの最期の言葉

あなたの望む未来に私の想いはあります
どうか歩みを止めないで
大丈夫
希望はそこにありますよ

156ページ ママの言葉

“希望"という言葉はここにもありました。

そして考察でもなんでもないですが、160ページのスペランツァ。
ぱっと見背景と重なってわかりにくいですが、「わくわく」の文字が。
地下の探検にわくわくしているスペランツァ。かわいいです。

ラリベルタ

スペランツァと共に過ごすことになるアンドロイド。
ラリベルタの意味は作中でも明かされているように"自由"。
こちらはスペイン語です。

正式名称は7ページより「ET社製Hwh型アンドロ…ドD34モ…ー…ル」
恐らく「ET社製Hwh型アンドロイドD34…モデル…」…?
ACHIEVEから家庭用アンドロイドであり、大戦勃発と同時期に修理施設入りまでは判明しています。

また、22ページの回想から、少女のいる家庭にいたことがわかります。
お皿の量を見ると結構大家族……?

MAMA(ママ)

スペランツァを育ててきたアンドロイド。
クローン育成のために博士が開発。
体に恐らくスペランツァが描いたと思われる絵があるところがチャームポイント?

なお、起動の時に博士及びマドカと出会っていることから、
131ページのミミ、ユユと遭遇するシーンのママのセリフ

そうですか…
あなたは…

131ページ ママのセリフ

の「…」の意味するところは、
ユユの記憶データを見て理解したという意味の「…」ではなく、
博士のクローンであるスペランツァをマドカのクローンであるミミが探しに来たこと、これから出会うことを知った上での「…」なのではないかなあと、勝手に思いました。

エレーナ・タイレル

気象制御衛星を作った研究者にして、マドカの恋人です。
天才で、人見知りで、引きこもりで、自分のお世話は何にもできなくて、(マドカ談) 
そして、スペランツァのオリジナル。

博士自身はクローンについて

クローンとは言えバックアップでしょう
自分の後任の生まれのことまで考えてる余裕ないよ

52ページ 博士の言葉

と言っていましたが、前述の通り、クローンにわざわざ"希望"を意味するスペランツァという名前を付けるよう指令するあたり、本当はどうだったのやら。

そして2度目になりますが、

未来はどうなるかわからない
私はこの先の全てを見届けることはできないけれど
私たちの想いはなくならない
きっと いつまでも

83ページ 博士の言葉

あなたの望む未来に私の想いはあります
どうか歩みを止めないで
大丈夫
希望はそこにありますよ

156ページ ママの言葉

という博士とママの言葉。
“想い"という言葉が共通しています。
ここまで来ると流石に考えすぎな気もしますが、どうなんでしょう?

そしてエレーナ・タイレルという名前の由来。
確証はないのですが、
恐らく『ブレードランナー』という『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作とするSF映画に登場する、アンドロイドの製造会社「タイレル」に由来するのではないかと。。。

マドカ・シノミヤ

第三研究部の研究員。博士の部下?であり恋人。
そして、ミミのオリジナルです。

ARCHIVESによると、エレーナの死亡直後に滞在していた衛星の管理センターが襲撃を受け亡くなった模様。
49ページで描かれた研究所の襲撃を見、データチップを握りしめるマドカは恐らく博士の死を悟ったのでしょう。
ARCHIVES、そしてそのデータチップがクローンに受け継がれていることから、死ぬまでの間にクローンにデータチップを託し、それが巡り巡ってクローンの2人の再開に繋がります。
尤もマドカの死からクローンの誕生まで、528年が経過しているため、どのような形で託したのかまでは推察の仕様がありませんが。

その後33代に渡って、クローン達が大気への適応実験を続けたことの根底にあるのは、思い出あるいは仮想記憶でクローン達に受け継がれたマドカの会いたいという気持ちだったのではないかなと思います。

名前の由来は不明です。わかる人がいたら教えてください。

ミミ

33代にも渡って、大気への適応実験を続けた末に生まれたマドカのクローンです。
名前の由来は恐らく33代目のクローンであることから。

ユユ

ミミと一緒に旅をしてきたアンドロイド。
名前の由来はなんでしょう?

そして気になるのが106ページ。
何故ミミはセキュリティを解除する事ができたのかと疑問に思うリズの問いに
「…」とだけ。
ただ疑問に思っているだけなのか、ミミのオリジナルについて知っているのか、ミミとオリジナルを結びつけたくない(ミミはミミ)的なことを思っているのかなど想像を巡らせてみましたが、
みなさんはどう思いましたか?

エリザベス

オペレーター型アンドロイド。ミミらが地下都市で出会う。
元々は政府所属の自治体受付アンドロイド。
妹がいる。
しかし、アンドロイドの姉妹とは一体……?
同じシリーズとか、型番が近いとかでしょうか?

そして何と言っても
「今では私1体になってしまいました」のときの顔、
「お二人はとても仲がよろしいんですね。すこし…羨ましいです。…次の場所へいきましょうか」の言葉と
「今まであまり寂しいと思ったことはありませんでしたが」の言葉。

前者2つは最初読んだ時寂しさからくるものなのかなと思いましたが、最後の言葉と矛盾します。
最後が強がりでないとすると、では前の2つが意味するところは一体。
「1体になってしまった」が妹との別れからくる寂しさ以外の感情だとしても、
「羨ましい」とは一体。
どうしてリズは羨ましいと思ったのか。
人とアンドロイドが仲良くしていることを羨ましいと思うということは、過去に人間と何かあったのかなど色々と考え込んでしまいました。(多分考え過ぎ)

The following two tabs change content below.
自称システムエンジニアのくせに、農学系の地方国立大に通うおかしな生き物。 ひつぎ教育研究所社長。 好物は恋愛小説と生物学、哲学。BL以外はなんでも読む雑食。 一応、将棋のアマ三段。